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平成18年1月         
*平成22年3月28日追記 :少しばかり校正を施しました。
*令和 2年8月22日追記しました。

脱サラをする前に*リンクフリー 全頁無断転載禁止 

脱サラをしてラーメン店を始めたい人に役に立つ講座

 

*2020年8月の追記です。

今回新たに追記をする気持ちになりましたのは、昨今のコロナ問題が関係しています。コロナの影響により外食産業は壊滅的な打撃を受けています。なにしろ「営業時間の短縮」または「密を避ける」など、簡単に言いますと「お客様の人数を減らす」ようにしなければいけないのですから当然です。

飲食店の基本中の基本ですが、売上げは「お客様の人数×客単価」で作られます。このうちの「お客様の人数」を「増やしてはいけない」ではなく、それよりも厳しい「減らさなければいけない」のですから、経営が成り立つわけがありません。小学生でもわかります。

コロナが発生する前は、飲食店で独立する際のリスクは「来店客の多寡」でした。しかし、これからは、「来店客を制限すること」が基本となり、前提とする必要があります。そうしたことをしっかりと理解し、覚悟ができた人だけが独立する資格を持っていることになります。

それをお伝えしたくて「追記」を書きました。それでは体験記をお読みください。

はじめに

 現在世の中は独立ブームといってもよいでしょう。独立を勧める雑誌などもたくさん発売されています。理由とし てはリストラや組織の歯車で終わりたくないと考える人が増えているといったことがあると思います。しかし、成功 している人はほんの一握りです。それが現実なのです。私は昭和61年にやはり歯車で終わりたくないと思い、脱 サラをしてラーメン店を始めました。そして13年後に廃業しました。その経験からしますとマスコミや雑誌などで 紹介されている内容はあまり実態を知らせていないように思います。
 私はこの講座でこれからラーメン店を始めようと考えている人たちに少しでも本当の、現実の実態を知っていた だきたいと思います。マスコミや書籍などでは分からない、又は教えていないことを伝えたいと思います。
 実際、書店には 「成功するラーメン店」、「儲かる店作り」 などといったいろいろな本が並んでいますが、皆がそ うしたからといって上手くいくはずもありません。ですから私はできるだけ具体的に伝えるために体験記としまし た。この中から 「机上の空論」 ではない現場の雰囲気を感じて欲しいと思います。 

《 挑戦するものだけにチャンスはあたえられる 》

第1回

開店するまでの悩みと不安です。

 先ず、私が脱サラにラーメン店を選んだのは資金面の理由です。その当時も脱サラする業種として現在と同じ ぐらいの種類があったと思います。その中で一番少ない資金で始められそうだったのがラーメン店でした。それと 前職はタクシーの運転手でしたので何となく身近に感じられたのもあると思います。

 具体的に言いますと、新聞の折り込みに “FCでラーメン店をやりませんか?” という広告を見つけ、その広告 に惹かれたのです(FCとはフランチャイズチェーンです)。それからはFCの広告を集めるようになりました。そうし て集めた広告の中からA社に電話をしたところ、「面接に来て欲しい」 とのことでしたので「後日、伺う約束」 をし てから電話を切りました。また、他のB社に資料の請求を申し込みました。
 数日後、B社より請求した資料が届き内容を見ますと、申し込みから開店するまでの流れが説明が図解入りで なされていて、「最低資金の金額」 や 「成功者の声」 などが書かれていました。しかし、全く経験がない私にとっ ては「良いのか悪いのか?」、書いてある内容が 「本当かどうか?」 判断することができません。それでも、なん となく夢は膨らんでくるものです。
 さて、「面接に来て欲しい」 というA社を訪問することにしました。この会社はB社よりも規模は小さいようです。 社長の説明を聞き、そのあと実際にオープンしたばかりの店を見学に行くことになりました。
 見学に行った先はオープンして数日しか経ってない店で、二十代後半と見える若夫婦が働いていました。店の 広さは、カウンターだけの座席数十人位です。立地はといいますと、店の前は余裕のある片道一車線の車道で 店と車道の間には1.5mほどの歩道がありました。ラーメン店で重要なのはこの立地であり、車道の幅が一番大 事です。
 何故かといいますと、道路端に車を駐車できるだけの道幅があるかどうか、で売上げに響くからです。又、座席 数というのも大事です。売上げはあくまで“客単価×客数”でありそれ以外はあり得ません。中には「配達をすれ ばいい」と考える方もいるでしょうが、思うほど簡単にはいかないものなのです。配達には人手がいります。この 人員の確保というのが、個人営業では最も困難なことなのです。確保という以外に、その人件費というのもバカに なりません。こういった理由で、配達は考えに入れない方が良いでしょう。

 さて、見学に行った店での若夫婦の働きぶりはといいますと、そのときの店の状況はお客様は座席が満杯にな る位入っており、必死に本当に“必死”という言葉が当てはまる程、動きまわっていました。しかも驚いたことに、 奥さんは赤ちゃんを背中に括りつけおんぶをしていたのです。このような態勢ではどんなに必死に働いていても 作業の能率が上がるはずもありません。イライラしているお客様がいるのを感じました。私は若夫婦の必死の仕 事振りを見て、「ウワーッ、すごいなー感動するなー」 と思ったのですが、お金を払って食べに来るお客様という のは、単純に 「不満や不安を感ずる」 ものだと勉強になりました。
 私にもまだ三才と四才の子供がいましたのでとても不安になり、社長には 「後日、また連絡する」 旨を告げ帰 途に着きました。
 家に帰り妻に見学に行った店の話をすると、やはり妻も不安を覚えたらしく「そんなんで大丈夫なの?」 と聞か れましたが、「わからない」 と答えるしかできませんでした。
 何日か過ぎたある日、以前資料を請求したB社の営業の方が訪ねてきました。先に会いましたA社の社長はど ちらかと言いますと、ノーネクタイでラフな出で立ちでしたが、B社の営業の方はきちんとスーツを着こなし、いか にもセールスマンといった感じの方でした。
 物腰丁寧に挨拶を終えたあと、営業の方は自社の概要を説明し、またラーメン店の成功例を幾つか話し、そし て最後に「当社の加盟店を見学して欲しい」と誘いました。私としてはA社だけの見学では物足りませんので、も ちろん了承しました。
 B社の見学した店は加盟店ではなく直営店でした。その店はA社で見学した店よりも広さは二倍ほどありました が、立地環境は似たような感じです。店舗の運営は、四十才位の男性とその男性より十才くらい若そうな男性と 二人で営業しているようでした。その店は営業して年数もある程度経っているようできれいな感じはありません。 A社の見学店との大きな違いは「出前をやっている」ことで、出前用の麺と店内用の麺を「使い分けている」と話し ていました。
 私が訪れたとき、店内にはお客様が一人もおらず暗い雰囲気でした。そのときの私の気持ちがわかったのでし ょうか、営業の方は「脱サラをしてラーメン店をやるメリット」を少々大げさに訴えていました。しかし、あまりメリッ トばかりを強調されても逆に不信感を持つものです。私は「考えてみます。」と返事をして店を後にしました。帰り ながら考えたことは、FCというのは加盟店を増やすのが仕事なのだぁ、と。らーめんを売ることではなく…。だか らこそ、「営業の社員までいるんだ」と思いました。

 脱サラに際して、「何故、ラーメン店か」 というと折り込みにラーメン店のFC加盟店募集の広告が載っていたか らですが、もっと根本的なことを言うならば 「飲食業だから」 ということもありました。これは十年以上経ってこそ 感じるのですが、やはり人間は食べていかなければ生きていけません。人間が必ずお金を使うのは飲食です。こ れは大きな要因です。「脱サラしたい」 と考え、何の知識も経験も無いならこれしかないと考えました。
 FCにも小から大までいろいろありシステムも様々です。
 大きいところは営業時間から取引き先、内装工事業者など箸の一本まできめ細かく指定されています。契約期 間も厳しく決まっており、それらに違反すると罰金まで取られてしまいます。しかしメリットもあります。サポートシス テムが完備されており、立地に関する市場調査などもしっかりしているので成功する条件が整っていることです。
 それに対して、小さいFCは「単にラーメンの作り方を教えるだけ」で、問屋と加盟店との間に入ってマージンを 取るというやり方が多いようです。この場合のメリットは契約が細かいところまで厳しくないということです。
 そうした中で、私が重要視したのは “FCに強く縛られたくない” ということでした。規律が厳しいFCに加盟してし まうと “自由が無く、脱サラした意味が無い” と考えました。という訳で、小規模のFCを選択することにしまし た。結局、A社に決めました。

 考えた末にA社に決めたのですが、まだクリアしなければならない問題があります。ラーメン店は 「少資金で開 業できる」 とは説明を受けましたが、それでも一千万円位は掛かりそうです。私は脱サラするつもりで、一生懸 命、貯金してきましたが、金額的には三百万円位しかありません。それだけの資金で 「 開業できるのか?」 とい う不安があります。
 私は、A社の社長にその不安を告げました。しかし、社長は開業資金のことは余り気に留めていないようで、曖 昧な返事をするばかりでした。取りあえず社長に言われるままに国民金融公庫に融資の申請をすることになり、 書類等は本部の方で用意してくれました。
 私はその申請書を持って公庫に行ったのですが、担当の方の対応はとても冷たいものでした。担当者の方は、 いろいろと質問をしたり私の話も聞いてくれるのですが、未経験の人がラーメン店を始めるのは失敗する確率が 高く「とても融資できるものではない」といった感じです。結局後日、申請が 「受理されない」 という通知が届きま した。
 開業資金が用意できないということは即、お店を開業できないということだと思いますが、それでも本部の社長 は意に介さないようすです。二カ月程過ぎた頃、社長から 「良い物件(店舗)が見つかったので研修に入って欲し い」 と連絡がありました。いよいよ今の会社に辞表を出さなければならなくなりました。今から考えるとかなり無謀 ですが、その時はラーメン店を始められる喜びが勝っていて資金も 「本部が何とかしてくれるのだろう」 という甘 い考えを持った船出でした。
 結論を言いますと、開業資金は自分の貯金と親からの援助を合わせて全体の半分、残りは本部から紹介され た“リスクの高い融資を専門に扱う”金融会社から借りました。当然、“リスクが高い融資” ですから金利も普通の 金融会社より高くなっています。しかも、その専門金融会社との契約はお店の内装工事も終わり、店を開店した 後という始末です。
 この金融会社は利息が高いのですが、又それとは別の保証会社に保証料として確か二十万~三十万円支払 わねばならないことになりました。もうここまで来たら引き返すことはできません。選んでいる余裕や考える余裕は ありません。只、只、突っ走るだけです。しかし、この返済金が後後、ボディブローのように効いてくるのです。

 本部からの連絡で研修に入ることになったのですが、私はそれまで料理の経験が全くありませんし包丁を使っ たこともありません。それどころか、食材の名前すら知らなかったのです。それでも、もう収入の道はありません。 必死にやるだけです。研修は本部の直営店で行いました。
 研修初日、直営店に行って驚きました。なんと、直営店で働いていたのは正社員の店長一人と大学生のアル バイトさんとパートさんだけだったのです。直営店と言いましても、特に普通の店と変わったところはなく、またそ れほど広いわけでもありません。厨房の広さも奥行き3m幅70cmくらいで、すれ違うだけで精一杯と感じる狭さで した。
 その厨房内で一通りの作業の動きを覚え、後は実際に麺を茹でたりチャーシューを切ったりといったことを一 日約三時間程、これをたった三日やっただけです。それも、教えてくれるのはアルバイトの大学生です。これで は料理の基本などは全く教えてもらえるはずもありません。店は妻と二人でやるつもりでしたので、妻にも三日程 練習してもらいました。
 三日程の練習の間に私の他に三組、研修に来ていました。その方たちもやはり加盟店として開業する方たちで す。その中の一人はラーメン店で働いた経験があるらしく、手際が良いです。しかし、他の二組は素人ですので 皆さん 「この程度の研修で大丈夫か?」 と不安がっていました。

その中の一組が開店することになり、私としても三日間の研修の成果を試す目的もあり、また練習の意味も込 めて手伝いに行くことにしました。オープンの雰囲気を知りたかったのです。
 新規開店の店は直営店に比べると半分くらいの広さでした。厨房はとても狭く動きづらい感じです。店に到着後 すぐに、オーナー夫婦に挨拶をしたのですが、そのときのご主人がサンダル履きだったのが少し引っかかりました。このオーナー夫婦は研修期間中も、一番年長でしたので素人の眼で見ても技術的に上手いとは言えず、しかも一週間程度の研修では心もとないものでした。
 案の定、開店一日目は悲惨なものでした。お客様はたくさん来ました。店の外に列を作るほどです。たくさん来 たのはいいのですが、前日の下準備が完全でなかったことと、なんと言っても研修が完璧でなかったこともあり滅茶苦茶です。注文は間違える、料理を出すのは遅い、会計は間違える……。
 やはりというべきか、奥さんの方はとても一生懸命やっているのが伝わってくるのですが、ご主人の方はあまり 乗り気でない感じがします。二人が反目しあっているのが感じられました。お客様にも伝わっているようです。これ は店にとってマイナスです。

 話が逸れますが、私たち夫婦もオープン当初夫婦喧嘩をよくしました。私たちの場合は、夫婦共にやる気はあ ったのですが忙しさのために興奮状態だったのです。お客様に夫婦喧嘩を指摘されたこともあります。その時は とても恥ずかしかったのですが、お互いに気持ちに余裕がなかったためどうしても感情的になり喧嘩をしてしまい ました。

 話を戻しまして…。
 お店というのはオープン景気と言いまして、どんなお店でも開店して一週間位はものすごく売れるものなのです (よくFCはその時の写真を広告に使っていますが)。本来は、この時期にお客様をどれだけ上手く捌けるかがお 店の将来を決めます。しかし、このオーナー夫婦の場合はそこまで気が回らなかったようです。
 それはともかく、開店しているのですから、私も一生懸命手伝いました。
 私の気持ちとしましては、忙しい店を手伝うことが自分の練習になる、と思っていました。やはり当事者でないと いうのは自分の実力以上に手際よく働けるものです。どんなにお客様が込もうが、注文が殺到しようが、冷静に 機敏に対応することができました。
 午後に入り、オーナー夫婦の要請もあり、麺を茹でる作業を全て私にやらせてくれることになりました。どんなに注文が殺到 しようが、きれいに捌くことができるのはとても気分がいいものです。私は自分の力量に自信を持ちました。自分の開店時も「きっと上手く出来る」と自惚れたものです。当のオーナー夫婦はというと頭に血が上ってしまい、何を やっているかさえ覚えていない状態でした。

 結局、翌日も手伝いに行き 「あなたならなら上手くいく」 とオーナー夫婦からおだてられたりもしました。私自身も自信を深めていました。しかし、その自信が大きな間違いであることが、のちにわかることとなります。
 尚、この店は三年後に奥さんが茹で麺機のお湯を身体に浴びて大やけどを負ってしまい、閉店したと聞きまし た。

 お店が混むと興奮状態になるのですが私たち夫婦には次のようなこともありました。
 午後の空いている時間になり、夜のピークに備え仕込みをしようと包丁を探したときのことです。いつもの場所 に包丁がないのです。どこを探しても見つからないのです。狭い厨房ですからいつもの場所と違う場所に置いた としてもすぐに見つかるはずでした。しかし、どこを探しても見つからないのです。妻に聞いても「知らない」と言い ます。妻ともども、厨房内の隅から隅、調理台の下、どこを探しても見つかりませんでした。仕方なくその日は予 備の包丁で間に合わせました。

 次の日の朝も仕込みの前に探したのですがやはり見つかりませんでした。それにしても不思議です。妻ともども キツネにつままれた気持ちであきらめることにしました。
 ところが午後、私が仕込みをしていると妻が叫んだのです。
「あったー!」
 なんと包丁は冷蔵庫の中の奥に入っていたのです。私も妻も全く記憶にありません。しかし、どちらかが入れた のは間違いありません。人間は興奮すると何をしでかすかわかりません。

∞∞∞∞∞  ∞∞∞∞∞  ∞∞∞∞∞

 今回は開業に至るまでの顛末でした。特に資金などについて、私としてはそのことが最も心配でした。不動産など 担保となるものを所有していれば別ですが、そうでない方は公的な金融機関などから融資を受けるのは難しいと 考えなければいけません。しかし、高い金利でならば貸してくれるところはあることも覚えておきましょう。但し、それが正しいとはいえませんが…。

 尚、本文中<ラーメン>と表記していますが、私の気持ち的には<らーめん>と表記したいのです。しかし、文 章にするとどうも読みづらいので<ラーメン>としました。ですから<ラーメン>は<らーめん>のつもりで読んで 戴けると嬉しいです。

<第1回>  肝銘 (肝に銘じること)

≪ 金融機関は金を貸してくれないところである。≫

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