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脱サラをしてラーメン店を始めたい人に役に立つ講座

第12回

周りに新しいきれいな店ができました。

<立地環境の変化>

 今回は、当店の立地についてお話しします。当店は駅から若干離れており、人通りは全くと言っていい程ありま せんでした。店の前の車道はというと、車を駐車できる(違法駐車ですが)程の幅があり、昼食時は車を停めて食 べに来る運転手の方や営業職の方が結構いました。夜の時間帯は、昼間食べに来た方が夕食に家族を連れて 来てくれたり、何かのきっかけで一度来店した方がリピーターとして来る、という状態でした。昼と夜の時間帯別に 比率を見てみますと昼七:夜三という割合であり、当店の晩年の営業時間は午前十一時~午後九時三十分でし たのでこの比率は順当なところだと思います。
 さて、このような環境だったのですが景気が悪くなると共に夜の時間帯に来ていたお客様の来店の頻度が減っ てきました。やはり、お金を使うのを控えていったのです。それでもお昼の時間帯は売れていましたのであまり気 にかけていませんでした。これが間違いの元だったのですが…。そして次に、近くにあった企業が移転したり縮小 したりしました。それらの企業に勤めていた人たちの来店が少なくなったのです。しかし、何と言っても一番大きな 変化は駅の周辺の開発でした。
 開発の結果、駅がきれいになり飲食店が数軒出店しました。これにより人の流れがガラッと変わりました。売上 げが落ちる前は昼食時は必ず満席になり、座る席がないので諦めて仕方なく帰る人がいた程です。ここがミソな のですが、会社に勤めている人たちは昼食時間が限られていますので 「待ってまで食べよう」 とはしないものな のです。満席だと急いで他の店に行ってしまうのです。駅前に飲食店が数軒出来たことにより、「どうせ当店に来 ても座れないから」 と思うようになり、最初から駅の方へ流れていくようになってしまいました。当店の近くには飲 食店は一店しかなく当店が座れないとまた少し歩いて行かなければならないので数軒集まっている地域にどうし ても行ってしまうのでしょう。
 このようにして、最初から駅前に行くようになってしまった人たちも、やはりたまには当店で食べようと思うことが あります。しかし、そのたまに当店に食べにきたときに限って(いつもは空いているのに)、席が満杯で座れないと いうことがありした。そうしますとますます当店の方に足が向かなくなってきたのです。これはショックでした。この ようにして売上げが徐々に落ちていったのです。
 その他に、大手ファミリーレストランが割引チラシを新聞の折り込みで宣伝するようなったことも大きな痛手でし た。ファミレスも売上げ減少に見舞われ、安売り攻撃に出たのです。当店は日曜日は平日より売れていたのです が、この折り込みチラシが入り始めてから日曜日の売上げが平日より売れなくなりました。このような環境の変化 は自らに要因があるものではありませんが、このような変化にも対応するのが本当の経営です。しかし、対応で きませんでした。

  『 売上げがガクンと落ちるのは気にするな。徐々に落ちるのを注意しろ。』


 今までは外的要因について述べてきましたが、次に内的要因について述べたいと思います。
 廃業することを決断した要因の一つに設備の老巧化が上げられます。当店も十年を過ぎて、厨房内がボロボ ロになってきていました。又、器具(特に冷蔵庫や茹麺機など)も古くなってきています。冷房設備も二台ともそろ そろ限界です。これらを新しくし、改装までを含めると、優に開店時の半分位の費用が必要になってきます。その 当時の状況から考えてみますと、改装によって新しいお客様がある程度増えたとしても、その費用を返済しなが ら生計を立てるのは不可能と判断したのです。
 もちろん、「立地条件が悪くなったのだから場所を変えて再出発する」 ことも考えました。しかし、妻の体調が限 界にきていました。売上げが良かった頃は、従業員を採用することができ、妻の負担も軽かったのですが、人件 費をまかなうだけの売上げが確保できなくなり、つい無理をさせてしまいました。そうした無理が積み重なり、倒れ て二、三日寝込んでしまうことが何回かありました。それこそ、入院とでもなったらもっと大変です。
 こうしたことを総合的に考えて、廃業することを決断したのです。今まで書きましたように決断に至る理由は 様々ありますが、やはり何と言っても一番の理由は売上げです。これが全てです。その意味で言いますと、複数 店舗にすることも必要だったのかもしれません。そのことについて述べます。

 実を言いますと二店舗、三店舗と増やすのが夢でもありました。脱サラしたからには「規模を大きくしたい」と考 えるのが普通です。しかし、それとは別にリスクの分散という意味でも複数店舗にしなければいけなかったので す。これができませんでした。
 知り合いの問屋さんから「二店舗目を出店したことが原因」で倒産したラーメン屋さんの話を聞いていました。そ の方の話によりますと、二店舗目を出店したあと、その二店舗目を運営する店長を固定化させることができず (雇ってもすぐ辞めてしまい)、結局二店舗目を営業することができなくなり、それが負担となり一店舗目も閉めて しまうことになったそうです。それでは先に人材を育ててからと考えました。しかし、中々上手くいきませんでした。 人を採用して育てるということは本当に難しいものです。
 『人間の悩みの大半は人間関係である』 という言葉があるそうですが本当に悩みました。結局、経営するという こと、売上げを作るということはやはり人材をどれだけ上手く育てるかに尽きるのではないか、と痛感しました。ま だまだ、人間ができていなかったようです。

 それでは、従業員を雇用する際の心構えとして有名な 『オイアクマ』 をどうぞ。

(オ)怒るな (イ)威張るな  (ア)焦るな  (ク)くさるな  (マ)負けるな


 廃業を決断した要因として妻が体調を崩したということもあるのですが、元はと言えば従業員を雇うだけの売上 げが作れなくなり、一日中妻を店に出さなければいけなかったのが原因です。妻の代わりをする従業員を確保で きなかった、という人材に行き着くのです。そのような観点から考えますと、現在チェーン店(フランチャイズを除 く)として発展している企業は本当に 「偉い」 と私には思えるのです。私はたった一店舗を運営するのに妻に無 理をさせてやっと営業していたのですから…。私から見ますと、チェーン店の企業は尊敬に尊敬をしても足りない くらいです。それができなかった自分が情けないです。
 しかし、逆のこともいえるかもしれません。一店舗のままで失敗したから痛手は少なく済んだのだ、と。仮に上手 くいって、店舗が複数店舗あったとしたならそれだけ費用がかかります。又、従業員の数も多くなっているのです から、従業員の解雇後の手当もしなければいけません。その場合の心労は一店舗の場合とは比較にならないで しょう。
かといって、一店舗では限界がありますし…。一店舗しかなかったことが、良かったのかどうか私では判断がつ きかねます。特に今は弱気になっていますし…。

 もし脱サラをして商売としてラーメン店をやろうと考えてる人は本当に慎重に考えて下さい。一店舗だけで商売 をやろうとするのは、どうしても限界があります。数年間は上手くいくこともあるでしょうが、十年以上過ぎると改装 などで又資金が必要となります。その時にその資金のめどがあるか、もし借金をするのであればそれを返せるだ けの余裕はあるのか?と。
 その時は自分自身も創業時より十歳以上年をとってしまっているのです。その時に創業時と同じだけの体力 が、精神力があるか? そして、もし廃業する場合の再出発、具体的に言うと再就職はうまくいくのか? 私も年 齢的に、再就職が難しくなっています。会社員の場合は最悪、退職金を貰えないケースがあるとしても退職する だけで済みます。しかし、お店をやっていると店を閉めるために百万円近くのお金が必要となるのです。本当に 商売というのは、最後までシャッターを下ろして、大家さんに鍵を返すその瞬間まで気が許せず苦しいものです。

   『 退却をするのにも体力が必要だ 』


 私は店を閉めてしまいましたが、閉めなければどうしてもやりたかったことがあります。それは先程も触れまし たが改装です。レイアウトを変更したかったのですが資金的にできませんでした。そこで自らの反省を込めてレイ アウトについて述べます。

<レイアウト>

 開業するに際して、私にはラーメンの知識はおろか「店の運営」に関してが全くないことは以前にも書きました が、開業後に後悔したことに店舗のレイアウトがあります。自分の知識が増えるに従ってその思いはますます強 くなっていきました。私の店は広さ約十六坪(五十六平方メートル)、個人のラーメン店にしては広い方です。座席 数は十七席でした。この席数も開業当初は二十二席あったのですが、私は自分自身がキツキツに座って食べる のが嫌なもので、お客様にも余裕を持って食べて戴きたかったので減らしました。経営効率からいうと良くないこ とだったのかもしれませんが、それでも席が満杯になれば充分経営的に成り立っていける席数と考えていまし た。最後の方は満杯になることもなかったのですが…。
 まず、広さについて考えていきましょう。先程も触れましたが、私の店は個人が始めるにしては広すぎました。 広いということは、それだけ改装工事費が多くかかることになります。話は逸れますが、人件費も余計にかかりま す。もしカウンターだけの狭い店内であったなら二人で済むところが、テーブルがある為にもう一人必要とします。 それだけ効率が悪いのです。
 また、空調設備においても同様のことがいえます。ラーメン店は火を使いますので暖房より冷房の費用がかか ります。ですから、広いということは二台は必要となり設備費光熱費も余計にかかります。改装工事などの場合、 価格を決めるときには「坪単価○○円」といった計算方法をとります。この○○円はそれこそピンからキリまであ りますので一概にいえません。業者によって本当にまちまちです。材質を変えたり、前に使っていたものを利用し たりなど変えることができるようです。どちらにしても坪単価で決めますので当然広さは狭い方が良いのです。
 改装工事と先程書きましたが、広いことによる余計な出費は廃業の際の解体工事についてもいえました。解体 工事も 「坪単価」 で計算するのです。広いことによるデメリットは解体工事の時に強く痛切に感じました。
 さて、本題のレイアウトです。当店はラーメン店に最も多いパターンです。店内中央にカウンターがあり、その座 席の後ろにテーブルがあるというものでした。当店の場合、このカウンターの高さに問題がありました。
 開業時、カウンターに高さはほとんど無く、厨房内が丸見えでした。この 「高さが無い」 ということは 「お客様と 店側との境界線が低い」 ことを意味します。このことの問題点は「お客様が話しかけてきやすい」ことに尽きま す。<お客様との接し方>の項で述べましたようにラーメン店でのマイナス要素である 「話しかけやすい状況」を 作ってしまうのです。
 この他にも 「カウンターが低い」 ことはマイナス要素があります。当店は私の他にパートさんやアルバイトさんで 営業していましたが、パートさんたちに簡単な作業として盛りつけなどをやってもらっていました。ところが、新しい パートさんですと、どうしても慣れるまでは手つき、手捌きが不安定です。その不安定な作業が丸見えになってし まうのです。お客様にしてみますと、そのような不安定な手つきで作られたものを出されても味が半減することで しょう。このような訳で三年目にカウンターを業者に頼んで高くしてもらいました。
 作業を行うにあたっての人間の動きを “動線” とという言葉で表します。当店のレイアウトはその動線に関して とても非効率でした。ピークタイム時は厨房内で作業している人がホールに出たり、反対にホールの人が厨房に 入ったりしなければなりません。そのときに必ず通らなければならないのが 「通用口」 ですが。その通用口が店 内の端の方にあったのです。その為、時には一人のお客様に調理品を出すのに店内を一往復しなければなりま せんでした。こうした無駄な動線は無駄な人件費にも繋がります。通用口はホールのどこからも等距離のところ に設定しなければいけません。
 次に、レイアウトで忘れてならないのは熱の発生場所とその逃がし方を考慮することです。
 熱を発生させるものにはガスコンロと冷蔵庫がありますが、注意を要するのは冷蔵庫です。ガスコンロが故障 することはほとんどありませんが、冷蔵庫は使い方によって頻繁に故障します。
 開店当初、当店は冷蔵庫がガスコンロの横に配置してあり、この配置は決して誉められた配置ではありませ ん。さらに問題だったのは冷蔵庫の扉がガスコンロに向いていたことです。この配置ですと、冷蔵庫の扉を開け たときにガスコンロの熱がまともに冷蔵庫内に入りこんでしまいます。
 また、冷蔵庫の設置環境が悪く、上下横後方が壁に囲まれていました。このような環境に置かれた冷蔵庫は熱 の逃げ場所がなく、熱が冷蔵庫の周りに篭ることになってしまいます。冷蔵庫は周りの温度に効率が影響される 構造になっていますので無駄なエネルギーを使うことになります。そのため冷蔵庫が頻繁に故障していました。修 理に来た業者の方にも「対策をしたほうがよい」と指摘され、自分で壁を取り払い冷蔵庫を倉庫の方へずらしまし た。
 こうした対策により故障はほとんどなくなりました。冷蔵庫に修理代は年間二十万から三十万円かかっていた のでバカになりません。このようにレイアウトは非常に大事です。このレイアウトを設計したのは本部だったので すが設計した当時はこのようなレイアウトが一般的なもののようでした。やはりレイアウトも時代と共に進歩しなけ ればいけないのです。そういう意味でも十年に一回は改装は必要となるのです。

 ラーメン店を開業するにあたって、自分の理想通りに立地や広さが叶えられることはまずありません(資金に余 裕のある方は別ですが)。そうした中で最初に自分の思い通りにできること、そして経営を左右するのはレイアウ トだと思います。よく素人の方が始めるときに見栄えでかっこいいことに目を奪われてレイアウトを考える人がい ます。しかし、ランニングコストまたは空調効率を一番に考えなければ痛い目に遭います。見栄えがかっこよくて も経営が成り立たなければ意味がないのです。

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 周りに新しい店ができても「当店の味が気に入っている。」と浮気することもなくずっと来店して下さるお客様もい ました。それだけに続けたかったのですが、本文に書きましたように外的、内的要因を鑑みて決断しました。それ にしても新しい店が次々に開店していくと心臓に悪いのです。

第12回  肝銘

≪一店舗では限界がある。≫

 

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