PR
<脱サラをする前に>
*リンクフリー 全頁無断転載禁止
脱サラをしてラーメン店を始めたい人に役に立つ講座
第11回
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
十年という期間があったら、
事業というのは半分の五年間はトントンだ。
儲かるのは二年だけ、三年間は損をする。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
上記はシャープ(電機メーカー)の社長であった町田 勝彦
氏が祖父から教えられた言葉です。
坂を転がり始めました。<もう駄目かなぁ…>
売上げが徐々に徐々に落ちてきました。原因については後で述べますが、とにかく苦しいものです。妻との会話
もどうしても重く暗い感じになってきます。イライラして文句を言うことも多くなってきました。売上げが落ちてきても すぐに廃業する気持ちにはなれません。また
「売上げが戻るのではないか」 という期待感がどうしても湧き出て
きてしまいます。しかし、妻からはもう諦めている感じが伝わってきます。そうすると私は余計にイライラが募りま
す。そんなことの繰り返しでした。問屋さんなど業者の方と話をしても 「景気が悪くて参った」 という話しか聞こえ てきません。
経営雑誌を読むと 「この不景気の中でも過去最高の利益を出している企業もある、民間は政府にばかり頼っ
ていては駄目だ。こういう時こそ創意工夫をして利益を出すのが本当の経営者だ」 などと書かれています。私も
その通りだとは思うのですが、なかなか良い考えが浮かばないのが現実なのです。私も昔でしたら営業時間を延
長してでも頑張るという気力が出てきたかもしれないのですが、その気力が今ひとつ出てこないのです。これでは 商売人として失格でしょう。
売上げが戻ることを期待ばかりしていても仕方がありませんので、自分の中で期限を設けることにしました。こ
のように考えたのは夏場です。ラーメン店は夏は暑いので売上げが落ちます。秋口になってからの二ヶ月、それ でも売上げが戻らなかったら
「諦めよう」。そう決めました。
九月になりましたが、それでもまだ暑さを感じます。十月からを秋口とすることにしました。決断を 「先延ばし」
にしているのです。やはり未練があるのです。九月が終わりました。やはり売上げは戻りませんでした。
しかし、その一ヶ月の間に売上げが良かった日も何日かありました。そうすると本当に未練たらしくて恥ずかし いのですが、もしかしたら十月には
「売上げが戻るかもしれない」 などという甘い期待が出てくるのです。売上げ
が良かった日が何日かあったとしても、一ヶ月終了後の数字はやはり戻っていないにもかかわらずです。数字は
本当に正直です。売れているか、売れていないか、利益が出ているか、出ていないか、その店の業績をズバリと 的確に表すのです。最後の一ヶ月が始まるとき、妻には
「今月売上げが戻らなかったら店を閉める。」 と告げま した。
最後の一ヶ月はドキドキものでした。妻とよく昔話をしました。始めた当初は子どもたちも小さかったこと、印象
に残ったお客様のこと、お店を終わった後二人で食事に行ったことなど、思い出話は尽きませんでした。一ヶ月
の三分の二を過ぎた頃、もう大勢は決まっていました。やはり売上げは戻らなかったのです。
決断をしたのは休みの日です。その前日の売上げが極端に悪いものでした。朝十時に起き、ひとりボーッとし
ていました。薄暗い部屋で一人で考えていました。妻は寝ています。子供たちを学校に送り出すため早朝に起き
た後、睡眠の続きをとっているのです。私は視点が定まらないまま天井を眺めていました。静かな空間に妻の寝
息と時計の音だけが聞こえます。考えました。悩みました。一時間は過ぎたでしょうか。そして、「もうあきらめよ う」
と自分自身に言い聞かせたのです。その日のうちに妻には伝えました。その時、妻の顔にはホッとした表情
が表れたように思います。それからはイライラすることもなく久しぶりに穏やかな気持ちで過ごせました。
その後、大家さんとの契約上もう一ヶ月間営業し、その間、長年来店して戴いたお客様たちに挨拶をしました。 閉店する最後の一ヶ月前に 「閉店のお知らせ」
を店内に貼り出したのですが、それを見て続けて来店してくださ
ったお客様もいました。本当に感激しました。当店には年四回必ず来店されていたお客様もいらしたのですが、
そういう方たちには挨拶もできず申し訳ない気持ちでいっぱいです。又、閉店を告げると 「残念です」 と言って戴
いたお客様も多く、本当に感謝の気持ちで心が一杯になりました。それから、当店で働いてくれた、パートさん、ア
ルバイトさん、従業員の方々にも深くお礼を申し上げたいと思います。本当にありがとうございました。
解体工事も終わり、何もないコンクリートむき出しの中に入ってみました。昔の面影はこれっぽっちもありませ
ん。ここで自分がラーメン店をやっていたなんてとても不思議な気がします。壁際に水道の蛇口が一つ立ってい
ます。工事に使うために残しておいたのでしょう。栓をひねってみました。水は出ません。あ、そうか。水道はもう
止めたんだ。蛇口を軽く叩きました。水道管に水が残っていたようです。水が不規則にポタリ、ポタリと落ち最後
の一滴がポトリと出て止まりました。そのとき大家さんが来ました。最後の点検をするために待ち合わせていたの
です。今までのお礼を述べ、シャッターの鍵を返して、そして私の十三年余りのらーめん生活は幕を閉じたので す。
結局、お店を閉めてしまいました。この結果はどんな理由があれ、真正面から受け止めなければなりません。 経営雑誌に載っていた “経営は結果である”
という格言が身に染みます。例え、それが健康の理由であれ、何
の理由であれ、廃業したという結果でしか判断をしてはいけないのです。それでは辛いですが、廃業に至った経 緯を辿っていきましょう。
やはり、最初にお店の魅力が無くなったということを挙げるのが失敗した者にとっての筋でしょう。自分で言うの
も何ですが、当店は「おいしい」との評判を数多くの方から戴いておりました。しかし、お客様の来店頻度が減って
きました。景気が悪くなり、消費者の財布のヒモが固くなったのが理由です。また、駅前が再開発され飲食店が
複数店できたことも大きな理由です。飲食店の数が増えるということは、お客様にとっては選択の幅が広がること
ですから、当然当店に来店する頻度も減ります。週に四~五回来店していたお客様が週一回になったとしても不 思議ではありません。
この 「週四~五回が週一回になった」 ということが魅力の無さなのです。もし、魅力があったならば、一時期は
週一回に減ったとしても、また戻って来たでしょう。しかし、もし言い訳が許されるなら 「お客様の特性」 をあげる こともできます。お客様というのは必ず
「飽きがくる」 特性を持っています。お客様は、常に新しい “もの”、 “こ と” を求めているものです。そうした 「お客様の特性」
に応えようとして、新しい “もの”、 “こと” をやるということ は業態を変えることになるのです。
私は、ラーメン専門店がチャーハンなどご飯モノを始めている例をよく見かけました。又、おつまみ等を取りそろ
えて居酒屋になりつつあるラーメン店も見かけました。これらの店は 「お客様の特性」 に応えようとした結果で
す。しかし、ラーメン業界全体を眺めてみますと、そのように新しい“もの”、“こと”に安易に対応した店は必ず潰 れています。結局、業態が中途半端な為、魅力が
「より薄れる」 のが理由のように思います。
そうした例を数多く見ていましたので、私はラーメン専門店の業態を最後まで崩さないことを信条にしてきまし
た。私はフランチャイズチェーンに加盟して開業しましたが、その当時開業した三十数店舗は九割が五年以内に
閉めています。それらの店は、やはり今言ったように新しいメニューを次々に考えて加えていきました。理由を尋
ねますと、お客様からの要望があったからという答えです。それらの店が閉めていくのを見て、私は自分自身に 「業態を崩してはいけない」
と肝に銘じていたのです。
しかし、売上げが減少してきました。
このような状況に追い込まれたとき、「業態を崩さない」 でお客様を呼ぶには宣伝をすることが真っ先に思い浮
かびます。しかし、この宣伝ということが私はとても心に引っ掛かっていました。
味覚、視覚、臭覚といった人間の感覚で判断される商品(例えばラーメンやファッションなど)に絶対性はありま
せん。こういったものは、多種多様、一人一人好みが違うものなのです。あくまで個人の好みなのです。それを大
多数の人が同じであるかのように感じさせる、ある意味錯覚させるのが宣伝の効果です。感覚で判断される商品
はその傾向が特に強いのです。それに対して、機能で判断されるモノは錯覚させるのが困難です。例えば、スイ
ッチを一回押すだけで動く機械と、二回押さなければ動かないのとではその魅力の差は歴然です。
私はラーメンという味覚で判断される商品を売っていましたので、宣伝というモノにとても慎重になっていまし
た。私が宣伝しても良いという方法は、あくまでそこに 「そのラーメン屋さんがある」 ということです。そしてそうい った意味での一番の宣伝は、その場所で
「長く営業を続ける」 ことだと考えていたのです。
又、私はこうも考えました。一度来店されたお客様が 「自分の味覚に合う」 と思い、定期的に来店してくれるよ
うになり、そういったお客様が積み重なっていけば自然と客数は増えていく、…と。
しかし、そうはなりませんでした。確かにそうやって 「増えて」 はいったのですが、数年を過ぎるとお客様自身が
年齢を重ねることにより、ライフスタイルが変わっていき、来店しなくなるのです。敢えていえば数年後に 「昔はよ く来たなぁ」
と懐かしがって来店するくらいです。
例えば毎週来ていた学生が社会人になったり、または会社帰りに来てくれた方が結婚したり、または子供を連
れて家族で来ていた方々の子供が成長したり等ライフスタイルが変わることによって来店しなくなるのです。やは
りいつも新しいお客様を呼び込んでいかなければ客数は維持できなかったのです。
駅前に新しい飲食店が開業したと書きましたが、当店と同じ業態・業種ではありません。全く異なった業態・業
種の飲食店です。これから考えますと、当店の客数が減ったのは、やはりお客様の選択の幅が広がったというこ とが大きな原因のように思います。
「選択の幅が広がった」 という意味において忘れてはいけないのが、コンビニや持ち帰りの 『お弁当』 です。お
弁当ですと昼食代を五百円以下で抑えることができます。以前は、昼食時に当店を利用していた方が、当店の
晩年はコンビニ弁当が入ったビニール袋を手に提げて歩いている姿をよく見かけるようになっていました。
また以前ですと、近くでマンションや道路の工事があるときは、そこの作業員の人たちが数多く来たものです。
しかし、次第にお弁当を利用する作業員の方が多くなっていました。昔のように工事があればお店が満席になる
ということはほとんど無くなってしまいました。こうした変化はやはり不景気の為、財布の紐が堅くなっている証拠
だと思います。同じ理由で、家族で来られる方の頻度がめっきり減っていきました。
それから、不景気の影響といえば午後二時から午後六時までの売上げ減少にも表れていました。以前は、そ
の時間帯は事務関係の人よりは車を運転する人が来店することが圧倒的に多かったのです。例えば、トラックや
タクシー、営業で外回りをしているセールスマンの方々が食べに来ていました。しかし、晩年は車の通行量が減っ
ており、その通行量が減っているのですから売り上げは落ちて当然です。
そのような時代状況でも食べに来てくれる人はいました。そうした方は 「何としてでも当店で食べよう」 という強
い意識を持っている人ということになります。つまり固定客です。しかし、この固定客の方だけではどうしても売上
げは落ちていきます。<奮闘記>の方にも書きましたが、「何としてでも当店のラーメンが食べたい」 という固定
客だけでは売上げは伸びないのです。マスコミを使って行列を作っている有名店を除くなら、普通の飲食店では
固定客の約三倍の固定客以外のお客様が必要です。それなのにその固定客しか来店しなくなるのですから、売 上げは落ちて当然と言えます。
『 変化はコントロールできない。できるのはその先頭に立つことだけだ 』
ピーター・F・ドラッカー
∞∞∞∞∞ ∞∞∞∞∞ ∞∞∞∞∞
廃業する店をたくさん見てきましたが、それでも自分が廃業するとは夢にも考えていませんでした。そのときが
来るまで「自分は違う」と勘違いしていたのです。まだまだ甘かったのですね。
第11回 肝銘≪ 下り坂でも自分を見失うな! ≫
前のページ 次のページ
<脱サラをする前に>
*リンクフリー 全頁無断転載禁止
PR