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脱サラ・独立・フランチャイズ考察

第5章

もう1つのFC加盟体験談
 2度目に加盟したFCの社長はマスコミに頻繁に登場する方でした。マスコミを利用することでFC本部の知名度 を上げることに長けていました。私もなんどもテレビなどで見ていましたが、あやふやな印象を持っていました。こ の社長に限らず 「危ない社長」 の特徴は大風呂敷を広げることです。そして社会貢献を口にすることです。この 社長は、起業の動機として 「貧しいアフリカの後進国を豊かにすること」 を上げていました。なぜ、アフリカなのか 理由はわかりませんが、マスコミからは注目を集めたようです。こうした活動が功を奏し、起業した当初はいろい ろな団体から 「賞」 まで貰っていました。いかに 「賞」 があてにならないか表しています。

 結局10年ほどで倒産したわけですが、私からしますとよく10年ももったものだと思います。10年ももった理由 はFC本部だからこそです。その間、多くの加盟店が開業後数年しか経たないうちに廃業しています。当時から、 ネットではこのFCのいかがわしさは広まっていました。加盟店および直営店が利益を出せないでいるにも関わら ず加盟店を募集しつづけたのは悪質と言われても仕方ありません。

 私が加盟した当初から本部自体が危機に瀕していたのは想像がつきました。本部から加盟の説明にきた営業 部長の話からです。当然、部長がそのような話をするはずはありませんが、部長の話を総合すると想像できる危 機でした。しかし、説明している部長自身はその危機に気がついていなかったのがせめてもの救いです。もし、本 部の危機を知りつつ加盟店募集を行うなら部長も同罪だからです。

 たぶん部長に限らずほとんどの社員は本部が潰れるとは思ってもいなかったでしょう。そうした予兆は組織の 中にいるよりも外部にいる人間のほうが敏感に察するものです。やはり、中にいますと 「潰れてほしくない」 とい う希望感があるからです。

 倒産する数ヶ月前より、本部が行ったことは 「お金を加盟店から集める」 ことに終始していました。例えば、什 器や備品を格安で販売するなどです。本部が資金に困っていることは容易に想像できました。


 ここで少し話を戻しまして、部長と契約書を交わしたときの様子をお伝えいたしましょう。
 最初の出会いは私からの電話です。私がネットで加盟店主を募集していることを知り問い合わせたわけです。 そのときの印象は悪くないものでした。それは 「押しつけがましさ」 がなかったからです。営業をしている方の中 には、「なんとかしてモノにしようと強引に接してくる」 人がいます。この部長にはそんな素振りが全くありませんで した。そのときは簡単な問い合わせだけで電話を切り、訪問の予定なども決めませんでした。その後、幾つかの FC本部に問い合わせましたが、その中で一番感じがよかったのが、この部長だったわけです。ですから、次に 電話をしたのは最初に電話をかけてから約1ヶ月が過ぎていました。

 部長が我が家を訪れいろいろと話を聞いたわけですが、私としては 「開業ができればよい」 という心積もりでし たからそれほど不安はありませんでした。その後、部下を伴い再度訪問を受け、加盟を決めました。

 契約書に印鑑を捺す日、部長は前回と違う部下を連れてきました。いよいよ契約書に署名をするというとき、私 は試しに言ってみました。
「加盟金をもう少し安くなりませんか?」
 もちろん、部長が 「おいそれ」 と受け入れるわけはありません。いろいろな言い訳を言ったあと、「ちょっと、上 司に電話させてください」 とポケットから携帯を取りだしました。

 もちろん、私の目の前で話しているのですから、部長の言葉でおおよその内容は推測できます。しばらく話した あと、部長は携帯を切り私に向かって話し出しました。
「ほかの方からも問い合わせがあるみたいで、今すぐに決めないとほかの方に決まりそうなんです。今の金額で いかがでしょう」
 部長のこの 「行動」はパフォーマンスです。この 「台詞」 も前もって決めていたに違いありません。そしてこれ らはセールスの常套手段です。しかも性質の悪い…。私はこのようなセールスのやり方が好きではありません。 今回は、「開業する」 ことが目的でしたので不問にしましたが、違う場合でしたら、その時点で話を打ち切ってい たでしょう。読者の方には、このように 「時間がないことを理由にその場での契約を迫る」 ことや 「これ見よがし に上司に電話をする」 などするセールスに出遭ったなら、そのセールスは80%の割合で断ることをお勧めしま す。


 ある日、エリアマネージャーである担当者が上司を伴ってやってきました。かねてから 「今度、やり手の部長が 異動してきます」 と話していましたので、新任部長の挨拶も兼ねて同伴してきたようです。このとき部長とは簡単 な挨拶だけを済ませ、あとは担当者と店の運営方法などについて話し合っていました。その中で話の展開から私 はつい余計なことを言ってしまいました。余計な一言が多いのは私の悪い癖です。

「もしかして、給料が遅配になっていませんか?」

 私は冗談も半分含んで言ったつもりだったのですが、担当者がまじめな表情になり一瞬固まったのでした。私も 驚いたのですが、もっと焦ったのは部長でした。言葉に詰まっている担当者を助けるかのように部長が会話の中 に入ってきました。

「ウチの会社は、月給というより年棒制なので毎月支払うシステム……ムニャムニャ」

 部長の話も要領を得ない内容でしたが、担当者の表情や部長の慌て振りから察しますと給料が遅配している のは明らかのように感じました。私は、申し訳ない気持ちもありそれ以上は追求しませんでしたが、それから数ヶ 月後に倒産しました。読者の中で給料が遅配になっている方がいましたら、すぐに転職先を探したほうが賢明で す。

 社長には息子さんもいました。私はこの息子さんに数回会っています。私が譲り受けた店舗から数駅しか離れ ていないところに住んでいたからです。元々、この店舗は息子さんが探し出した物件だそうで、息子さんは店の 「立地条件の目利き」 には確かなものを持っていたように思います。

 息子さんの肩書きも確か 「○○部長」 だったように記憶していますが、ちょっと自信はありません。初めて訪問 してきたとき、名刺に書いてある氏名が社長と同姓でしたので尋ねてわかったことです。

 息子さんの会社での職種は営業ではありませんので、店舗の運営についてはあまり話すことはありませんでし た。息子さんは財務関係の仕事をしていたようです。店を訪問したときは主に 「本部の株の購入」 や 「新しいFC ビジネスへの投資」 などを勧めていました。どちらにしても 「お金集め」 に関することです。これはあとでわかった ことですが、息子さんは私以外にもいろいろな個人や法人に 「株の購入」 や 「新規FCビジネスへの投資」 を勧 めていたようで倒産後にいろいろな人が店にやって来ました。私としては、話の内容を聞いてもどうにもならない のですが、倒産後もしばらくの間、FCの看板を出していましたので 「なにかしらの情報を得よう」 とやって来たの だと思います。

 倒産する1ヶ月ほど前、私の自宅に怪しげな団体から封書が届きました。中には、新聞や雑誌の切抜きのコピ ーが数枚入っており、どれもFC本部の問題点を衝撃的に指摘した記事でした。そして 「加盟店主として実体験 の問題点を報告してほしい」 と締めくくってありました。

 私は一応、息子さんに封書について報告しましたところ返ってきた返事は

「連絡、ありがとうございます。封書の記事は真実ではないので、裁判を起こしますから…」

というものでした。それから1ヶ月後、弁護士から倒産の報告が届いたわけです。予想はしていましたが、やはり 実際に現実のものとなりますといささかショックを受けます。


 FC本部倒産後、私は自分で仕入れ先などを確保して平常どおり営業をしていましたが、ほかのほとんどの加 盟店は廃業したようでした。
 これもあとからわかったことですが、倒産する以前より 「営業を続けていた加盟店」 は激減していたようです。 本部はFCを運営して利益を出すというより、新たに加盟を希望する人たちから開業費名目で加盟金を集めるこ とで利益を出す体質になっていたようです。つまり自転車操業です。その新たに加盟をする人が減少したことが 本部が倒産した大きな原因です。どちらにしてもFC本部が健全な経営方針ではなかったことは明らかです。

 このように、本部が倒産した時点で 「営業していた店舗」 はそれほど多くはありませんでした。しかもそれほど業績が よかったとは思えませんから、それらの店舗が本部倒産を期に廃業したのも当然の判断です。逆の見方をする なら、このような本部でありながら本部が倒産するまで 「営業を続けていられた」 ほうが奇跡といえるかもしれま せん。その奇跡を可能していたのは一も二もなく恵まれた立地環境だったからにほかなりません。そしてこのこと は、店の売上げを決めるのは経営ノウハウよりも立地環境のほうが大きい要因であることを証明しています。

 なんとか営業を続けていた加盟店も、そのほとんどが本部の倒産を期に廃業しましたが、中には私と同様に営 業を続ける選択をした加盟店もあります。そしてそうした店舗が集まって緩やかなネットワークのような組織を作 ったようでした。生き残った加盟店で力を合わせて 「今後の対応を探ろう」 と連絡を取り合った集まりです。

 その中の代表者らしき方から連絡がありネットワークへの参加を打診されました。しかし、私は断りました。基本 的に、その時点で営業できている加盟店は立地条件が恵まれていたからにほかなりません。または物件が自己 所有である可能性も高いです。そのような恵まれた条件の方々の集団に参加しても私にはメリットはほとんどな いように感じました。

 私は、ネットワークに参加することに意義を見出せませんでした。ネットワークを組むなら圧倒的な大きさを組む 必要があります。小さなネットワークでは仕入れなどについてもスケールメリットは得られませんし、価値ある情報 を得られる可能性も低いでしょう。その代表者の方とは現在も連絡はとっていますが、ネットワークを組んだ意義はそれほど見 出せていないように感じました。


 以上で、2度目のフランチャイズFCに加盟した顛末は終わりです。いかがでしたでしょうか。参考になりましたら 幸いです。

 私は2つのFC本部を経験しましたが、どちらも確固たる経営ノウハウなどありませんでした。これまでにもテキ ストやコラムで幾度か書いていますが、FC本部に限らず 「必ず成功する経営ノウハウ」 などこの世に存在する はずがありません。仮にあったとしたなら誰にも教えずこっそりと自分で実行しているはずです。そのほうが 「他 人に教えること」 で得る収入より簡単に高収入を得ることができます。にも関わらず 「他人に教える」 ということ は、自分で実行するよりも 「他人に教える」 ほうが収入が高いことを示しています。私はFCの問題点はこの一点 に集約されていると思います。

 本部倒産後、廃業する加盟店と営業を続ける加盟店に分かれましたが、中には本部を立ち上げた加盟店もい るようです。FCで儲けたいなら加盟店ではなく「本部になる」に限ります。一昔、いえ二昔前から本部になることを 目的に、そのノウハウを得るべくFCに加盟した人もいました。実際、このような例は枚挙に暇がなく、のちにトラ ブルも多く発生しています。私が1度目に加盟したラーメンFCは元々は 「持ちかえり弁当」 の加盟店でした。そこ でFC本部のノウハウを習得しラーメンFCを立ち上げたわけです。本部と加盟店ではその儲ける額が桁違いです から、本部を目指す気持ちもわからないではありません。

 FCシステムの 「儲かりやすさ」 が広く知られるにつれ、新しい業種のビジネスが生まれました。それは 「FC立 ち上げ」、または 「FC支援サポート」 というコンサルタント業です。不動産業から焼肉業に参入した有名焼肉FC はそうしたコンサルタントを利用したよい一例です。

 この焼肉FCはFCコンサルタント業のアドバイスを受け大きく成長しました。また、その成功がこのFCコンサル タント会社の知名度を上げもしました。どちらも大きく成長したのですから理想的な例といえるかもしれませんが、 成功したなら成功したで問題が生じます。それは、成長した要因がどちらにあるかの対立です。つまり、どちらも 「自分のノウハウまたは経営能力が高い」から成功したと思っているわけです。最後は意見の衝突があっても不 思議ではありません。実際、後年、両者は契約を解除しています。人間誰しも手柄は自分のものにしたいのが性 です。

 それはともかくFCシステムは本部が利益を上げるようにできていますので、機転のきく人は加盟店より本部を 立ち上げようとします。しかし、私はFC本部は道義的に正しいビジネスではないと考えています。理由は、今まで に述べてきましたように、あまりに本部と加盟店の立場が不公平だからです。現在の状況は 「なにも知らない人」 をうまく言いくるめて儲けているようにしか感じません。仮に、本部と加盟店の立場が同等になったなら今までの ように本部が利益を上げることはできないでしょう。しかし、そのような環境になって初めてFCビジネスは健全な 産業になり得ます。

 加盟店の立場が不利な契約になっていることは、ここ数年で広く知られるようになってきました。その証拠にFC で最も大きな業界であるコンビニ業界では数年前より加盟店主の募集に四苦八苦するようになっていました。一 昔前ほど簡単に加盟店主の成り手を見つけることができず、最悪の場合店舗を閉鎖せざるを得ない状況にまで 追い詰められているようです。

 次章ではそのコンビニ業界について考えていきたいと思います。

第5章終わり

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